昔の記憶

うちの施設の利用者さん。大体半数以上が認知症を発症しています。日によって穏やかだったり、不安定で恐い表情をされていたり。そうなると、大声で怒りだす。人によっては毎日同じ状態で、楽しそうに過ごされている方も、もちろんいます。

また、帰宅願望・夕暮れ症候群はお決まりのルーティン。そうなると、どんな時・どんな環境の状態がそうさせているのか、よ~く見ていたら気づきます。

さて、人は認知症など関係なく、幼少期や若かりし頃の記憶って鮮明だったりしませんか?もちろん、全てを記憶しているわけではありませんが、むしろ歳をとってからの近日の記憶の方が、浅かったりします。

多くの人に共通する事

昔こうだったとか、昔住んでいた場所・経験等を語る時、多くの方は良い表情で話が弾みます。近日の話をするときは、とても楽しかった事等でなければ、そんなに目を輝かせて語ることってあんまりないように感じますが、昔の記憶になると、辛かったことも楽しかったことも大抵が記憶に残っていて、嬉しそうに話します。懐かしむといいますか・・・。しかしながら、トラウマとしての記憶に関しては、また違った状態にもなりますね。

では、なぜ人は・・・個人差はあるかと思いますが、昔のことは覚えていても、新しいことを忘れてしまう事があるのでしょうか。また、覚えられなかったりするのでしょう。
それは、年齢と共に記憶に関わる『海馬』と呼ばれる脳神経細胞の働きが弱っていく・細胞の数が減り、脳自体の大きさが少しずつ縮んでいくと言われています。

この海馬の働きは、ストレスなどにも影響されて弱っていくそうです。子供の頃に比べると、社会に出てからの人のストレス等は、とてつもないものではないでしょうか。

日常的な出来事や覚えた情報は、この海馬で一度整理され、その後『大脳皮質』という場所にためられていくといわれています。「新しい記憶」は海馬に、「古い記憶」は大脳皮質に保存されます。

そういったことからも、昔の記憶があるのは、覚えた事だから。なのです。これは、認知症の方々にもいえる事でしょう。

先に個人差があると言いましたが、この海馬の働きの差によって、人はヒントがあると、「あぁ!」と忘れていた出来事だったりを思い出せます。どこかしらで、覚えているからです。また、しっかり記憶力のある人は、きっと海馬の働きが衰えてないという事なのかもしれません。ちなみに、この海馬の働きは、鍛えることが出来るそうです。

では、認知症の場合はというと・・・

「忘れる」のではなく、「覚えられない」という事なのです。なので、認知症の方々が昔の事を覚えていて、懐かしそうに話せても、さっきの出来事や先日の事等を忘れてしまっているのは、過去の出来事は、すでに「覚えた事」であって、現在の脳の状態では「覚えられない」という事なのです。もちろんこうなると、海馬を鍛える事も不可能になってきます。認知症になると、そこにプラスされて、見当識障害が出るので、色々と問題が発生するのです。

人と関わる生活を・・・

孤独感がある高齢者と、社会的な活動を通して、より多くの人と交流する機会がある高齢者とでは、記憶に関する違いが明らかになっています。それは、記憶を失うスピードがゆっくりだというのです。


他人と関わることで、脳は活性化されます。要するに、自ずと刺激を受けるし、会話が生まれれば、脳トレにもなります。そして、交流があるということは、少なからずとも体を動かしていたりもするでしょう。

以前のブログにも書いていますが、歳をとっても常に何か新しい事にチャレンジすることって、本当に記憶力を高めるために有効なのかもしれません。ストレスは、海馬に悪影響を与えますが、好きな事をやってみるチャレンジは、そんなストレスも良い刺激になるのかなと感じます。

嫌な辛いことは、美徳ではありません。今、どうしたら人生が豊かになるのか迷っていても、楽しいと感じる事に敏感になって、楽しいと思える日常を過ごせたら全てにおいて活動的になるでしょう。

今日も、ある認知症の利用者さん・・・。昔は母親に、こんな歌を教えてもらったのよ。って、送迎車で歌いだし、皆で盛り上がる。そして、ある利用者さんは、昔は私が働きまくって皆を養って、それは大変だったのよ。って、表情は達成感に満ちている。

記憶はずっと、人の心に生きている。

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